第32章 燻る残り火をどうか消して
思いのままに水分を掻き抱いて、目が覚めて、もう一度水分を抱いた。
それだけやっても満ち足りない心は寒々としていて、常に脳裏にちらつくのはあの金髪だった。それをかき消すように水分を抱いたところで消えるはずもない、水分の心を占めるのは、上鳴だ。俺だって、わかってる。水分に相応しいのは俺じゃ無い。水分のことを大事にしてやれる、あいつはそういうやつだ。俺は身を引いた方が、きっと。
昨日のことを思い返して、道中であった上鳴と水分の様子を思い出す。何かを言われて顔を赤くした水分が頭に浮かんで。俺とすっぱ抜かれたりしていなければお前らはくっついていたんだろうな。上鳴はデートを邪魔してすみませんと言ったが、邪魔なのは俺の方じゃないか。
それでも、無茶苦茶な方法ででも形式上は手に入れた水分を手放すのは辛い。俺はどうしても水分の全てが欲しい。あの卒業の日の告白の続きをいつかもう一度、あの時と同じ心持ちで伝えて欲しい。昨日のあれは、もう後には引き返せないと思って口から出たんだろう。俺と週刊誌に載って、ここまで恋人として振舞ってきたのだから。だから、もう後には引き返せないのだと諦めての言葉だ。だから、あの時のようになんて、叶わぬ願いだとわかっていても。
いいや、……叶わぬ願いなのだから、もう。