第30章 零れ落ちるシャングリラ(裏)
「水分、好きだよ」
真白いシーツに散らばった水分の髪をさらりと撫でて。もう抑える必要のない想いは唇から意図せず零れ出る。撫でた先の細い髪先を掬いあげて唇を落とせば水分と目が合った。
こうなって初めて思い知る。こんなにも自分が水分に溺れていたということに。きっとあの卒業式の日から、否、自分でも気付かぬうちに知らず知らず俺の心に棲みついていたのだと。
好きな女と通じ合うということは、こんなにも心を揺さぶるものなのか。どこか切なげな表情を浮かべる水分は俺の言葉にその切なさを濃くして。ここに至るまでどれほど水分を傷付けたことか。どうかその傷は俺に癒させて欲しい。言葉にはしなくとも余りある愛を注ぐから。