第28章 よすがもなにも、どこにも
「こんなことになった責任取らせてくれ」
俺と付き合って欲しい、そう言って私に差し出されたその手を取るべきか否か、しばらく思案した。
(責任取らせてくれって、何……)
私とのこの関係を終わらせると言ったその真意は。その言い草だと、まるで。まるでそこに相澤先生の気持ちは存在しないと言っているようで。
頭の中で繰り返されるのは相澤先生のその言葉と先程偶然にもこのデート中──と呼べるほどの時間もまだ過ごしていないが-に遭遇した上鳴の言葉。
(俺は本気で水分が好きだから、か……)
ずっと、冗談だとか私を慰めるための軽口を叩いているものだと思っていたのに。けれど上鳴のあの声音は冗談だなんて言って片付けてしまうのは悪いと思うくらいに真剣味を帯びていた。
きっと私に差し伸べられた上鳴のその手を掴めば有り余る程の愛を与えてくれるのだろうと思う。傷ついた私をどろどろに溶かして、甘やかして。相澤先生を忘れきれない私をそれでもいいと受け入れて、不誠実な私を愛してくれる。
───それでも私はこの恋を捨てきれない。