第26章 されど甘い蜜を啜りたい
熱愛報道から数ヶ月が経ち周りの冷やかしも落ち着いてきた頃。他の先生を欺くためにと互いの部屋を行き来するのが最早日課となっていた。だいたい生徒達の話しかしないが、週末には時々酒を酌み交わして抱かれることもあった。何故か寮に入って以来、酔わないようにしていたのが嘘みたいに躊躇い無くお酒を飲んでは私を抱く先生に少しの戸惑いを持ちながら私は溺れていく。
そして今日もまた変わりなく、先に寮に戻った私の部屋に相澤先生が来たと思いきや開口一番に成された提案に私は困惑していた。
「デートでもするか」
「……は?」
ちょっとコンビニ行くか、そんなノリで発せられたその言葉に間抜けな声が出る。
「少しくらいそれらしいことしておいた方が信憑性が増すだろ」
周りが落ち着けばもうこれでいいだろ、と言われると思っていたのに何を言い出すのかと開いた口が塞がらない。
「マイクに付き合ってるならデートくらいしないのかと言われた」
「……はぁ」
こちらを見ずに続けるその言葉の真意が読めなくて、曖昧な返事しか返せないが先生はまだこの関係を終わらせるつもりではないらしいということだけは分かって、少し浮かれる心。けれどそれはこの偽装恋愛を周りにバレないようにするための嘘。決して恋人のような甘い時間を過ごせるわけではないということも分かっている。
「まあ、確かにそうかもしれないですけど……」
本当はめちゃくちゃ嬉しいくせに、そんなのは表に出せなくて。先生とデートなんて、嘘でも嬉しい。嬉しさと悲しさが心の中で渦を巻いて。
「……別に、嫌なら断っていいぞ」
「断った方が良かったですか」
まるで断ってくれといわんばかりの投げやりな言葉に、ほんの少しムッとして。
「そういう理由なら貴重な先生の時間を無駄にするのも忍びないのでお断りします」
「……水分との時間が無駄だとは思わないよ」
ボサボサの頭を乱雑に掻いて私を見据える先生の瞳が、あまりに真っ直ぐで心臓がどくりと鳴った。
「言い方が悪かったな、俺が水分としてみたいんだ、デート」
少しだけ恥ずかしそうに目を逸らした先生はポリポリと頬を掻きながら私の返答を待っていた。