第1章 【さとし】の日常。
侑李がまだ、べらべらと
説教をしているのを、ただ頷いて
聞き流しながら、窓の外を見る。
車で走っているから、次々と
早送りのように過ぎ去っていく街並みは
見ていて飽きない。
僕は、基本夜の仕事だし、
外に出ることも、出たいとも
思わないから、こうして外を見るのは
とても新鮮で、面白くてたまらない。
今、流行りのものとか。
行列が出来ているお店とか。
…僕は、きっとそんな街の風景に
馴染めないんだろうな。
なんて、ひとりで感傷に浸っていたら
僕の座っていた後部座席のドアが
開いて、鬼の形相の侑李が
『着きましたよ』って、ピリピリ
しながら教えてくれた。
そんなに怒らなくたって良いのに。
って心で、呟きながら車を降りて
事務所のある雑居ビルへと進んだ。
「おはよーございます」
いつもの様に挨拶をすると、
店長の部屋から人影が現れた。
「あ、店長…」
『おはよう、智。頑張ってるみたいだな』
「もちろんですよ、楽しいですしね」
『そう思ってるのはお前くらいかもな…』
なんて、店長の東山さんが
深刻そうな顔で、呟くのを聞き逃せなかった。
「何かあったりしました?」
東「いや、また一人減るんだよ…」
「そう、ですか…でも僕は辞めませんよ?」
東「はは、そう言ってくれると嬉しいよ」
なんて他愛もない話をして。
また、今日の予約の日程を聞いていたら…。
「今日も予約沢山ですね、楽しくなりそう」
『…はよっす』
後ろから、のっそりと声を掛けられた。
その声に店長と声を掛けた本人を見る。
東「ああ、和也か…お前にも予約入ってるよ」
和「…何件っすか」
東「2件…かな」
和「……ちっ、2件かよ」
軽く、小さく舌打ちをした彼は
僕に次いでこの店の2番手やってる
二宮 和也。
態度悪いし、愛想ないし。
客にも同じような感じみたいで。
けれど、熱狂的な太客もついてる。
なんか特殊な魅力を持った子。
…でも僕は、あまり関わりたくはないな。
この子からは嫌な匂いがする。
怪しげで、危険な香り…。