第1章 締め切り前の原稿に墨汁こぼせ!
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「はぁ!?全部知ってたぁ!?」
あの後10分足らずで逃げるのに失敗した私は
おもてなしの羊羹とお茶を頂きながら
先程一郎から聞いた言葉に驚く。
私が幻太郎との家を飛び出した理由からここにいる理由まで、一部始終を全て乱数から聞いたらしい。
あっの…おチビ!余計なことまで話しおって!
私がさっきまで一郎の影にビビってたのが
アホみたいじゃないか!
わなわなと震える私を尻目に一郎は茶を啜る。
「まあ、そういうことっスから
上の部屋が空いてるから好きに使ってください
二郎、あとで案内しとけよ」
「う、うん!わかったよ兄ちゃん」
二郎さんあなたいま「うぇ!?俺ぇ!?」って
顔しませんでした?私の気の所為ですか?
「兄ちゃん」が言うから仕方なく従うんです?
「…弟さん、すごくいい子ね」
「だろ?二郎も三郎も、自慢の弟達なんだ」
一郎は眉を八の字にして笑う。
なんだ、結構可愛い顔すんじゃんこいつ。
皮肉のつもりで言ったことに罪悪感覚えそう。
「でも長男が1番可愛いかも」
「…え?」
キョトンと目を丸くする一郎に
私は口角を吊り上げた。
「アンタみたいなまっすぐな男は
嫌いじゃないわ、だって可愛いもの」