第1章 締め切り前の原稿に墨汁こぼせ!
この時代で女に生まれるってことは
きっとラッキーなことだ。
男性よりも優遇されることは当然だし
政治的な力だって女の方が上。
ずーっと昔は男尊女卑なんて
ものがあったらしいけど。
今は真逆。
女が上で、男が下。
だけど男尊女卑の時代でも
恋人が出来、家族になり、子供が産まれるように
今の私達もそれなりに恋をし、愛を育み
家族になっていく。
私もそのうちの1人だった。
そう、だった…のだ。
つい先程までは。
私が現在お付き合いしている…
否、お付き合いして“いた”彼は
夢野幻太郎…っていう小説家で
年は同い年。
いつもヘラヘラして、言ってることに
信ぴょう性がないというか、嘘くさいというか
と、言うよりいつも嘘ばっかつきまくる困った人だった。
もうあれは悪癖としか言い様がなく
私も半分諦めてたし、ユーモアがあって
いいなぁ、なんて…恋は盲目ってやつね。
でもさ、アイツが嘘つきヤローってのは
知ってたし許容してたつもりでも
プロポーズまで嘘ってどういうこと?
1人で舞い上がって浮かれる私は
さぞあの人に取っちゃ滑稽で
笑い者だったに違いない。
式場はどこにするか、とか、日取りはどうする、とか
一生に一度しかない大事なことだから
幻太郎と話し合って決めたくて相談した矢先に
それは起こった。
あいつはいつも通りの笑顔で
「全部嘘ですよ」って言ったんだ。