第1章 ミダの収穫祭
森の奥に入り、エルドランテを紹介すると、風音の表情がそれまでにないほど輝いた。
「初めまして。金色の竜さん」
「初めまして。ボクはエルドランテ。ハイネから話は聞いているよ。ボクのことはエルって呼んで」
「私は風音。エル、なんて綺麗! 今まで旅先でいろんな竜に遭ったけれど、あなたみたいな綺麗な竜に逢ったのは初めてよ」
ハイネダルクを振り返って、風音は幸せそうに笑った。
「エルと逢わせてくれてありがとう、ハイネ」
エルドランテもとても嬉しそうだった。
風音は鈴を手足につけ、父親の弦楽器の代わりに異国の唄を自ら歌いながら舞った。宙を歌い踊る舞姫と純白の花吹雪を追って、無邪気にエルドランテは飛び回った。
舞が終わるとハイネダルクは拍手した。
「歌も上手いじゃないか。どうして町でもそうしないんだ?」
「歌いながら舞うのはまだ練習中なの。声量も体力も足りなくて、遠くまで声が届かなくて、おまけにすぐ疲れちゃう」
その言葉通り、少し疲れた様子の風音は、食事を始めた。風音が近くの泉で汲んだ水と町で買ったパンを出すと、エルドランテは珍しがって、風音にねだった。風音はパンや鶏肉や野菜をエルドランテに分け与えて、楽しそうに食事を終えた。
そのまま、座って、仲良く会話する。
今回の収穫祭は三日間続いた後、終わる。四日目には母の遺骨を墓地に埋葬して、父と次の国へ旅立つのだと風音は告げた。
「そうか。では、明日で祭りは終わりだから、明後日には旅立つのか」
ハイネダルクの残念そうな言葉に、エルドランテもしょんぼりと尾を下げる。
風音は穏やかに微笑んだ。
「もう森への道は覚えたから、明日も同じ時間にここへ来るし、来年の収穫祭にも来るわ。父がそうすると言ったから。毎年、ミダの収穫祭に合わせて、母の墓参りに来ようって」
「来年か」
十年先のことなんて分からないと思っていたのに、こんなにも来年が待ち遠しいと思ったのは、ハイネダルクにとって初めてだった。風音はこういう旅先での出会いと別れに慣れているのだろう。寂しさを見せない我慢強い表情をしていた。
そして、そろそろ午後の舞の時間が始まると、やや急ぎ足で帰って行った。