第1章 ミダの収穫祭
年に一度の収穫祭。今年は作物の生育も良く、これから長く寒い季節に入る前のミダは国全体が賑わっていた。
普段は人目を避ける呪術師達も、町に出て祭りを楽しんでいる。それに釣られたのか、キリトとジェドもいつもよりはしゃいでいるようだった。
「祭りに行こうぜ!」
「今年はいつもより外国からの客が多いらしいぞ」
二人に誘われて、どちらかと言うと、森や図書館の静謐を好む少年のハイネダルクも、賑やかな町中へ出かけて行った。
キリトが嬉しそうに言う。
「さっき、いろんな種類のトゥチャと甘い菓子が並んだ屋台を見つけたんだ。俺、行って来る」
ジェドは別の方向を見ていた。
「俺は露天商の薬草を見て来るかな。他国の珍しい薬草が並んでいるようだ」
一人残され、どこへ行くか、迷っていたハイネダルクが心惹かれたのは、町の中心にある広場で行われていた、大道芸人の技だった。
弦楽器を奏でる中年男性に合わせて、ハイネダルクと同い年くらいの少女が、手足に澄んだ音色の鈴をつけて、軽やかな舞を舞っている。
見物客の仲間に入ると、知り合いの女性に声をかけられた。
「あら、ハイネ。祭りに来ていたのね」
彼女はこの町で唯一の小さな図書館を切り盛りしている司書だった。ハイネダルクの優れた知性を、ミダのような小国に埋もれさせるのを惜しむ大人の一人だったが、ハイネダルクは愛する国や森を離れて他国へ行く気はなかった。
「旅芸人の親子ですって。去年、旅先で亡くなった奥様がミダの出身で、収穫祭で稼ぎがてら、その遺骨をここの墓地に納めに来たそうよ」
どこから仕入れたのか、そんな情報まで教えてくれた。
その時、少女が舞いながら、ふわりと宙に浮かび、両手から純白の花吹雪をまき散らしたので、見物客から歓声が上がった。
ミダではこの程度の呪術はさして珍しくないのだが、それでも軽やかな鈴の音と共に舞い散る花吹雪は美しかった。
ハイネダルクの脳裏に、森の奥で見つけた黄金の竜、エルドランテが浮かんだ。この見事な舞をエルドランテにも見せてやりたいと思ったのだ。