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第1章 律儀な人





「はじめまして、上の階に引っ越してきました、藤ヶ谷太輔といいます」


仕事から帰宅した夕方、玄関のチャイムがなった。
扉を開けると、きれいな顔立ちの青年(?)が立っていて、彼はそう言った。

「…はい」
「引越しの挨拶にと思いまして」

そう言うと彼は、小さな紙袋を差し出した。

「つまらないものですが…」

見た目からするときっと自分よりも若い。
都会に越してきて、一人暮らしするようになってから、
引越しの挨拶に来る人なんていなかったし、自分も隣人へ挨拶はしていなかった。
今時律儀な子なんだなぁ、と関心などしてみたりしながら、笑顔でそれを受け取る。

「わざわざありがとうございます」
「いえ、でも、やさしそうな方でよかった」

そう言って彼は安心したように笑った。
田舎から上京してきたばかりで、不安があったんです、と照れくさそうに彼は言った。
その気持ち、わかるなぁなんて。
私も上京したばかりの頃は不安がいっぱいだったなぁ。と思い出す。
ついクスッと笑い、その気持ちわかります、というと、彼も嬉しそうに笑った。

「これからよろしくお願いします、さん」
「こちらこそよろしく…えっと」
「太輔、です。」
「はい、太輔くん。」

そう言ってペコ、とお互い頭を下げる。

じゃあ失礼します、といって彼は去っていった。
玄関の扉を閉めながら考える。

すごくかっこいい人が引っ越してきたなぁ。芸能人みたい。
やさしそうな人だし、よかった、と安心する。
何か困ったときは声かけてみようかな…?
そう思いながら、ちょっと気分が上がって家事に精を出した。


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