第1章 依頼にて
「…………」
「7時には帰るからさ」
「はあ、仕方ないですね」
電話を切り歩き出した。
屋敷の部屋に恵理香ともう1人女性が座っていた。テーブルを挟んで2人用のソファーが設置されている。そのソファーに向かい合わせに座って2人は話をしていた。恵理香の向かい側に座っている女性は40代前半ぐらいで目元には小じわが見える。
「神隠しのようなことはないわね。私も結界師の端くれよ? そんな強い妖怪や霊が近くにいればわかるわよ。結界師の家系に生まれた子はそういうのに敏感だから。貴女はそういう家系じゃないのによくそこまで結界術をマスターできたわね。結界師の家系に負けず劣らずよ」
女性は不思議そうに恵理香を見る。
「私はそれだけ努力しましたから。あとは実践を積み上げていくだけです」
結界術とは空間支配術と呼ばれ、その支配者を結界師と呼ぶ。
さらに支配した結界を結界と呼ぶことから、結界師と呼ばれる。
術の発動時には手順があり、まず人差し指と中指を立て、方囲(ほうい)で印を結び、定礎(じょうそ)で位置を指定した上で、結(けつ)で結界を形成してから、滅(めつ)で結界ごと内部を破壊する。結界を解除したい場合は、解(かい)で結界を消す。
さらに慣れてくれば、結(けつ)、滅(めつ)のみに略したり、言葉を発さずに結界を作り出し滅することができる。
なお道具を使えば結界を張れる術者もたくさんいるが、一から結界を形成できるのは結界師だけである。
結界術は誰でも覚えることができるが、失うものが大きい。
結界師の家系ならば生まれた時から結界術を扱える。
一般人が結界術を覚えたとしても、完全なる結界師とは認められない。
なお結界師の家系かそうではないかの見分け方は、黒四角い形の模様が浮かんでいるかを確認することである。
「私の名前は、裕美子よ。宜しくね」
「宜しくお願いします。相良恵理香です」
「ふふ。貴女の職業当ててあげようかあ?」
恵理香は裕美子の瞳を見る。
「お侍さんね」
「驚いた? ごめんなさい。さっき握手するときに確認させてもらったのよ。もしかしたら霊退治や妖怪退治してたりする?」
「はい。ですがそれは、バイトという形式でやっていますので気にしないでください」
裕美子は驚いているのか目をまん丸に見開き次の瞬間笑った。
「あはは。貴女面白いわね」