第1章 依頼にて
午前6時
玄関でお見送りしてくれる友夜に笑む。
「いつでも帰っておいで」
「はい」
私は手を振り徳川家を後にした。
バスに乗り静岡駅に向かう。そこから新幹線に乗り換え東京へ向かった。
改札を出て外に向かい壁に背を当て溜息を吐く。
東京駅は広いし人も多い。名古屋駅とは比べ物にならない。気を探るが真の気はもちろん感じないし、電話をかけるが繋がらない。
誘拐や殺人の線も考えたりしたのだがそれはない。一般の人が慎を殺すことなど技術的に不可能だし、例え腕の立つ者とやりあっていれば、何かしらの痕跡が残っているはずなのだ。
「お侍さんこんなところで何をなさっていらっしゃるのですか? 刀も持たずに」
この嫌味ったらしい口調は……
振り向けば、にこやかに笑う徳川豊がいた。
「徳川先生じゃないですか、お久しぶりです」
「今日は馬鹿トリオじゃないんですねえ残念、ああ、馬鹿なのは貴女だけでしたね」
「なんですか嫌味ならもう行きますね」
背を向けると恵理香の左肩に徳川の右手が乗る。
「慎がいなくなったのは千歳公園です」
「貴方も一緒にいたんですか」
「彼とすれ違っただけです。挨拶しようと振り返ったらもういなくて。それから無断出勤するし、音信不通だし、もしも見つけたら僕の代わりに言ってください。何患者ほっぽいて自分は行方不明になってんだ。と」
ニコリと笑う徳川に言った。
「文句なら自分の口で言ってくださいよ」
「………それもそうですね」
徳川は背を向けた。
「じゃあ僕はこれで」
人の波に飲まれ姿が見えなくなるのを見送った後、右方向に身体を向け歩き出した。
徳川先生の言っていた公園を確認する。
別に変なところはない。幽霊や妖怪、悪魔の類も考えているが……
「うーん」
(わからない。人間の仕業じゃないのなら、妖怪、地霊、悪魔の仕業にしか思えない。だが人が刺激すればそんな能力を使えるのかもしれない)
顎に人差し指を当て考えていると、自分のスマホが鳴る。ライン電話のようだ。
「はい。もしもし」
「ちょっと恵理香さん、今どこにいるんですか!?」
「東京」
「え、なんでまた。あ、もしかして慎さんの操作ですか? もう今日は休みのはずでしょ?」
「ごめんごめん。あいつに進◯の◯人返してもらってないんだよねえ、早く読みたいから返してもらわないと」