第1章 依頼にて
もしもこんな事が時夜にバレたら怒られそうだ。
彼女は少なからずこの仕事に誇りを持っている。
なのでこの事だけは彼女にだけ秘密なのだ。
歩いていると後ろから足音がする。
悪霊の気配ではないという事は浮遊霊か? 妖怪の類ではないだろう。
ばっと後ろを振り向くがやはり誰もいない。
変質者の類かと気を探ってみるがそんな気は感じない。
ぞぞっとしたので結界を使って空から家へ向かう。
地面に着地すると玄関に電気が灯っている。
ここは吉成の家だ。今はバイト中なのでこの家にお世話になっている。1度後ろを振り向きなんの気配も感じない事を確認してから引き戸を開けた。
玄関で靴を脱いでいると足音と共に優しい声がかかる。
「お帰り恵理香」
「うん。はい弁当。美味しかったよ」
「どういたしまして」
そう言ってニコリと微笑む。
「じゃあ、お風呂に入って寝なさい」
「うん。そうする」
この男は、徳川友夜。吉成の父である。
布団を敷き横になるが、何故かさっきから落ち着かない。帰り道変な足音を聞いたからだろうか。何度も寝返りを打つ。時計の針が4時を指した時、玄関の扉が開く。吉成が帰って来たようだ。布団を出て玄関へ向かう。
「お帰り」
「お、おう。ただいま。で、どうしたんだ眠れないのか? お前いつも昼までぐうすか寝てるくせに、今日はかなり早起きじゃん」
「うん。眠れなくてさ」
「………なんだ、心配事か?」
「うーん………まあそんな感じ」
「………慎ならすぐ見つかんだろ? あいつだって侍なんだし」
「あ、あの医師のことは別に心配してない」
「ああそう」
吉成は歩き出し私の真横で止まり言った。
「あまり無理すんなよ。お前ほんとは霊が怖いんだろ。無理して手伝うことじゃ」
「ウチも嫌なんだよねえ霊や妖怪が人を傷つけるの。だから無理なんてしてない。それに以外とストレス発散にもなるし」
「一番怖いのはお前かも………」
「そうかなあ」
吉成が頷いて歩き出す。私はその後ろ姿を見送った。
恵理香は寝るのをやめ道場に足を向ける。きっと結界術の鍛錬にでも行くのだろう。
結界を30に貼り左の手のひらを肩の高さまで上げて、右手は刀を持つ形にして、鼻で息を吸った時青白い光が刀の長さまで伸びる。青白い光の刃を左の手のひらで握り込めばビリビリと電気が走った。
「今度こそ成功させる!」