第2章 夜明け
カランカランとドアが軽快に開く。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか? こちらのお席へどうぞ」
昨日ここを面接してカフェ店員になった。名前はポアロ。
そうあの毛利探偵事務所の下で安室透がバイトするポアロである。
マスターにコーヒーの作り方を教わり、接客の仕方も教わった。
原作で出て来た女性店員はまだバイト生ではないので、私が先輩になる。
お客さんに注文されたものを置いた時、またドアが開く。
「いらっしゃいませー」
軽く笑顔が固まる。
その人物も私を見て目を見開く。
私はそれに臆せず席に案内した。
よくやったと自分を褒めたい。
「ご注文は」
「じゃあコーヒーで」
「かしこまりました」
コーヒーを蘭の目の前に置き戻ろうと背を向けると声がかかった。
「あのまた会いましたね。ここでバイトしてたんですね、気づかなかったです」
にこやかに話をする蘭に身体ごと向ける。
「昨日バイトに入ったので」
これ以上話しかけないでくれと言うように笑む。
「お名前をお伺いしても?」
「あ、私相良天月です。宜しくお願いします」
「わたしは、毛利蘭です。この前言いましたけど」
にこにこと笑う蘭にあわせて笑う。
いつ原作が始まるかわからないが、こんないい子を悲しませるなんて酷い主人公だと思うが、離れなければわからないことだってあるんだろうしそれはそれでよかったのかもしれない。
1人納得しながら蘭に声をかけて離れた。
それから蘭は毎日朝に来てくれるようになった。
学校の話やお父さんの話、幼馴染の話。友達かと思うぐらいのペースだ。丁寧語は自然に抜けていた。
「それでね新一ったら事件を解決するたびににたにた笑うのよ。気持ち悪いったらありゃしない」
「ふっ。蘭さんはよっぽど新一くんのことが好きなんですね」
そう言ったとたん蘭の頬が赤に染まる。
「違うわよ。そんなんじゃなくて幼馴染だからで」
「だって好きじゃなかったら話題に出ませんし」
恥ずかしそうにする彼女に微笑ましげな視線を送った。
「あ、天月さん、幼馴染とかはいないの?」
「え、私ですか? いますよ。でも蘭さんとのような甘酸っぱい関係ではないですよ」
「もう、わたしと新一はそんな関係じゃ」
「はいはい、わかりましたよ」
「ほんとかなあ」
じとりと私を見る蘭。
「ほんとですよ」