第2章 夜明け
部屋に戻ってくると青年は胡坐をかいて座っていた。
「聞きたいことあるんだけど、お前死んでるんだよね? ここ君の家?」
「違う。ちゃんとこの部屋の住人はいるよ。今は仕事でいないけど、その人も君のこと知ってるから安心しなよ」
「それって」
話の腰を折るかのようにインターホンが尋ね客の訪問を知らせた。
ぐっと息を飲み玄関まで歩きドアを開けると若い女性が挨拶してきた。
「こんにちは。私この部屋の住人なの入れてくれる?」
そう言われて横に避ける。
「ありがとう」
女性は靴を脱ぎ部屋に入り青年を見て話し出す。
「どう? 全部話した?」
「全部話してない」
「そう」
「いや、あの、ちょっと待って」
2人は私を見る。
「あの人見えるんですか」
「えっええ、だって私の刺激霊ですもの」
「えっえー!」
「私引用しよ。あの霊から聞かなかった?」
「はい」
女性はじとりと青年を見る。
「まあいいわ。立ち話もなんだから座って座って」
「はい」
「はじめまして私の名前は、曽川亜美。宜しくね」
「相良恵理香です。宜しくお願いします」
「恵理香さんね、宜しく。あ、そうそう、これ貴女の戸籍ね」
目の前に見せた戸籍には、相良天月と書いてあった。
「天月」
「ごめんなさいね。名前まで投資できなかったの」
「いえ、これで大丈夫です」
「いやあ、それで大変だったわよ。忍び込んで戸籍をインプットするのはさ」
私は思う、これバレたら捕まると。
「じゃあ相良さん私はもう行くけど、これだけは約束して。この世界で友達を作るのはかまわないけど、恋人を作るのはダメよ。戻る時の壁になるから」
「安心してください。私は意志の弱い方ではないですので」
「あらあら頼もしいわね」じゃあ後は宜しくね。
女性がドアを閉めるとさっきまで騒がしかった部屋が、急な静けさに包まれる。
「ねえレイ」
「は、それ俺のこと」
「そうだけど、なんか悪い?」
「別に悪くないけど、何故にそのチョイス」
「幽霊だからレイ。別にどう呼んでもいいでしょ。名前聞く気ないし」
「あ、そう。で、何」
「お前が成仏。もしくは消えればウチの力の制限はなくなるってことだよね」
「そうだけど」
「じゃあ今ここでお前を滅してもいいんだよねえ」
「……別にいいけどできればやめていただきたい」
「…………」