第11章 シリウスー大人と賭けと負けとー未完成
数日後いつものように昼食が終わるとシリウスが現れた。ガチャとドアが開く音に反応して顔をあげる。
「よ、飯食ったか?」
「…さっき。」
「美味かっただろ?ルカの作る飯は」
「おいしかった、すごく」
「そうか」
日常会話。シリウスが嬉しそうに微笑む。
「じゃあ今日も。…そうだな20分ってとこだな」
わかるだろ?と問いかけられアリスは頷く。
「でも今日は俺からじゃない」
「…へ…?」
「今日のキスは嬢ちゃんからだ。俺はソファに座ってる」
「…」
急に告げられアリスは一瞬目を見開く。けれど覚悟したように大きく息を吐いて身体を起こした。
「随分物分かりがよくなったな。もっと嫌がるかと思ったが」
「…、かけ、に、負けたから、」
今更どう足掻いたって何も変わらない。アリスは諦め半分でシリウスに顔を近づけていく。そしてそのまま唇を押し付けた。
「…っ、」
アリスのキスは明らかにシリウスに影響を受けていた。過去のキスを思い出そうとしてみてもうまくいかない。ここ数日シリウスに教えられたキスがまるで癖のように現れてしまう。
「っ、は、」
シリウスが満足そうに微笑む。
「…いい女になってきたな」
「…え…?」
小さく呟かれた声を聞き取れず思わず聞き返した。
「なんでもない。そろそろ20分だ。」
シリウスがゆっくり立ち上がる。
「ぁ、」
「どうした?」
いつもの頭を撫でる手がない。気付いて思わず声を出してしまった。けれどそれを待っていた自分に気付くとハッとしてしまう。
「…なんでも、ない」
「そうか?」
顔を覗き込まれ焦ってしまう。
「っ、あの、…仕事、がんば、って」
苦し紛れだったかもしれない。はじめて自分から話しかけた気がした。
「ぁ、ああ。」
シリウスの目に始めて動揺が現れた。だが、アリスはそれに気づかない。
「ありがとな。いってくる」
ふわっと大きな手が降りてくる。ポンポンと頭を撫でられアリスは何故か安堵した。
何かがおかしいーー
なんとなく感じ始めていた違和感にアリスは気づかないふりでそっと蓋をしたのだった。
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