第1章 A
セイバーを先頭に四人は慣れた廊下を出口に向かって一気に駆け抜ける。敵はサーヴァントだけではなかった。
黒い影をまとったどこか見覚えのある姿かたちの者もいる。先ほどのようにマスターのいるサーヴァントは令呪によって縛られているのか、よほど好戦的な性格ではない限り、争いたくないといった顔をする。
道をふさぐ敵を切り伏せていくが、サーヴァントや魔術師はセイバーの手によってみね打ちか軽傷。黒い影は切ると霧散するようなので容赦なく一刀両断していく。
「リシェ! こっちよ!」
友人、あの金ぴかアーチャーのマスターが時計塔を出たところで待っていた。
「アリス」
「いったい何なの?」
「わからない、キャスターは反乱だって」
外で時計塔を不安そうに見ていたのはアリスのほかに三人。二人より年上の三人のマスターと、三基のサーヴァントはライダー・ブーティカ、ランサー・レオニダス、セイバー・フェルグス・マック・ロイ。
「さすがは騎士王よ、我の妻は無傷のようだな」
『妻』という単語にキャスターが思わずリシェを振り返った。
「いろいろ説明したいところだろうが、なんか出てくるぞ」
あのね、とリシェがキャスターを振り返ろうとしたとき、ランサーがそれを止め武器を構えた。
ランサーの視線の先、立派な時計台『魔術研究機関・時計塔』
嵐の前の静けさ、次の瞬間、塔が内部から爆発し、中から黒い霧をまとった巨人があらわれた。
「総員構えなさい!」
ライダーのマスターは先輩だ、場数も踏んでいる。ひるんだマスターたちは彼女の号令に我に返り、目の前のわけのわからない巨人へにらみを利かせた。
巨人の一振りは予想をはるかに上回るものだった。
「下がってセイバー!」
「あんたもだよマスター!」
リシェはもう一度ランサーに抱えられ、大きく振りかぶって打ち下ろした巨人のこぶしの風圧から素早く下がった。すぐに二撃目が振り下ろされ、地面はえぐれ、逃げ遅れたサーヴァントとマスターが宙に舞っているのが見えてしまった。
「あぁ」
「見るな。これはどうしようもねぇ」
「アリスは」
「まずは自分のことを考えろ」