第1章 A
足を止めないランサーに景色は勝手に後になっていく。ようやく足を止めてリシェを下ろしたのは、町のど真ん中に位置する時計塔を、町を見下ろせる丘の上。
煙を上げ炎上する時計塔、黒い霧の巨人が煙の中に見え隠れする。
「キャスター! ランサー、キャスターが」
小さくしか見えていないのにリシェにはあれがキャスター・ギルガメッシュだとわかった。
「……宝具だ」
「時計塔からの魔力供給がないってのに、あの力の込めよう」
「死ぬ気……ランサー、今すぐ戻って」
「もう遅い」
あぁと言葉を漏らした次の瞬間には、遠くにいるのに目が眩むほどのキャスター・ギルガメッシュの宝具。目を閉じてしまいそうになった。
「消えたな。キャスターも巨人も」
「あぁ……キャスター…アリス……」
膝をつき目の前で起きた事実を受け入れられず、煙を上げる時計塔を見つめていると、高速でこちらに向かってくる一つの塊が見えた。セイバーだ、セイバーが誰かを抱えてこちらに向かってきている。
「スター! マスター! アーチャーを!」
セイバーが抱えてきたのは金ぴかのアーチャー。ギルガメッシュ。セイバーに担がれ、屈辱的だが体が動かないといった風に赤い瞳がどこかをにらみつけている。
「無事でよかった。アリスは?」
慌てて駆け寄ったリシェはそうセイバーに問うが、セイバーは静かに首を振っただけだった。
「我と……契約を」
固いコンクリートの上に寝かされたアーチャーは、わき腹がえぐれ呼吸も浅く、視線も定まっていない。震える手をようやくリシェへ伸ばし言葉を紡いだ。
考えている時間はなかった。
「つ、告げる! 汝の身は我が下に、我の命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら、我に従え、ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」
「アーチャーの名に懸け誓いを受ける、おまえを我の主として認めよう……リシェ」
次の瞬間、アーチャーがけがの治療のため、意図せずリシェから大量の魔力を奪い取っていき彼らのマスターがぶっ倒れたのは当然のことだった。