第1章 A
急を要する彼の雰囲気にランサーは槍を構え、セイバーはマスターを背にかばう。
「キャスター、怪我を」
「我のことはいい、サーヴァントだ、何れ治る。ともかく戦力を戻せ、お前も死ぬぞ」
平時に過激な言葉を使うような男ではない。
リシェは息を吸いなおし、左手の甲に赤く刻まれた令呪に集中し、出張、時計塔の支部へと派遣されているアーチャー・エミヤを呼び戻す。
「令呪をもって」
そのあとの言葉を紡ぐことができなかった。素早いランサーの胸に抱えられた次の瞬間、リシェのマイルームの壁が破壊されバーサーカー・スパルタクスが現れた。
「敵だ! ひるむな!」
キャスターの声とともにセイバーが飛び出していく。
「キャスター一体どういうことか説明してください!」
「呼び戻せと言っただろうが。子猫のように掴まれていてはできまいか。なに、反乱だ」
ランサーにつままれながら魔力を編めるほど器用ではない。リシェは彼の腕にしがみついているのが精いっぱいだ。
先頭、ではなくしんがりをセイバーが務め、スパルタクスが突破してきた反対側、部屋の扉から廊下へ抜けた。
「のんきだったのは俺たちだけだったみてぇだな」
ランサーが辺りを見回して呟くと、そうだと言わんばかりのキャスターの視線が突き刺さる。
反逆者とそうでない者、その見分けがつかぬうちにそうでない者は殺されていく。魔術師が、サーヴァントに。サーヴァントがサーヴァントに。
「まるで戦場です。キャスター、どこか落ち着ける場所を見つけるのが先では? アーチャーを呼び戻したほうが上策」
「まるで、ではない。戦場なのだ、一瞬でな」
「セイバー、止まるのは無理そうだ。状況はつかめないが判断のできた奴らは外に逃げ出している」
「とにかく外に出よう。その方が考えがまとまると思う。いいよねキャスター」
「まかせる」
「ではそうしましょう。私が道を開きます」