第1章 A
ほっと気の抜けた会話。
マイルームにはサーヴァントが霊体化して入ってくることもできなければ、魔術などでの盗聴も心配することはない。真名を呼んでも、他人の悪口を言っても聞かれることはない。
「早く帰ってこないかなー」
「おい、俺たちじゃ頼りないってか」
「クー・フーリンはね。アルトリアは頼りになる。強いしかわいいし騎士だし」
静かに扉が開き、ちょうどセイバー、アルトリア・ペンドラゴンが戻ってきた。何を言い争っていたのか? と言いたげな顔にリシェは彼女をねぎらい、一緒に紅茶でも飲もうと誘った。
「いいですね、では、私が」
「いいの! だいじょうぶ! 私が淹れるから二人は座ってて。座ってて」
言わずもがな。そういうことに触れてこなかった王サマと見た目にもがさつな男。リシェがマイルームに備え付けられているミニキッチンに立ち、カチャカチャと少し忙しなく紅茶の準備を始める。
「しかし、俺もそうだが。少々由来が違うというだけで、見た目はほぼ変わらなくとも中身が丸っと違う奴がいるっつうのは、面白いが変な気もするよな」
「そうですね。私に関してはランサーより多いです」
「アルトリアを始め、セイバーオルタ、セイバーリリィ、アーチャー、ランサー、オルタサンタ、その他もろもろ」
「さすがは私のマスター。よくご存知です」
「クーやエミヤには悪いけど、アルトリアはメインサーヴァントですもの!」
メインサーヴァント、ファーストサーヴァントとも呼ぶマスターもいる。
魔術師、おもにサーヴァントとのマスターになる魔術師は、一基から二基、まれに三基のサーヴァントに恵まれる。
複数のサーヴァントを所持するマスターは、協会への登録のためにただ単に呼び分けているだけなのだ。だが、やはり初めて召喚に成功したサーヴァント、贔屓にしてしまうマスターも多い。
恵まれる。と表現したのは、召喚サークルでの召喚や、まれに霊脈での召喚があったとしても、成功するもしくは契約(魔力供給、または主従関係)を結ぶことになるマスターとサーヴァントは少ないからだ。特に二基目となれば渋るサーヴァントは多い。