第1章 A
「ほう。初めて接近したマスターだが、そのようにべた褒めとは。いいのだな? そういうことで」
振り返ったリシェの目に入ったのは金ぴかの鎧にオールパックの金髪。いつもの見知ったギルガメッシュ王ではなかった。
「あ、すみません! てっきりキャスター・ギルガメッシュかと!」
「よい! 気分が良い! 我の妻にならぬか」
なぜそうなる。とそろった赤いアーチャーとリシェの声はすでに届かず。
ハハハハ! と声高に「聞いたか我がマスター」と自らの後ろに隠れていたリシェの友人、アリス・シャントレットが口をあんぐりと開けて「災難ね……」とリシェに向かって一言言っただけだった。
制御できない、そういうわけではないという。仕事、やるべきことに関してはマスターの意を酌みきちんとこなすという。それ以外、生活態度ともいうべきだろうか、そこがいまいち慎んでくれないのだとか。
それからだ、リシェに事あるごとにちょっかいを出し、それを守るために、彼女のサーヴァントである赤のアーチャー、ランサー、セイバーがべったりとマスターに張り付いていなければならなくなったのは。
「ははーん。確かにマスターと金ぴかキャスターは仲が良いもんなぁ」
「小さいころから遊んでもらっているお兄ちゃんだし、冗談も通じるし、大人だから、つい」
「自分で蒔いた種、とはいえ。ご愁傷様」
「自分のマスターに向かって合唱するな」
マイルームに入ってしまえば一安心。心配なのは夕食の時間。食堂は一つ、ここで働く職員全員がそこで食事をする。
もちろん時間をずらせば会うことはないのだろうが、あいにく食堂で夕食が取れる時間は決められている。
「いつもなら食堂で手伝いをしてるアーチャー……エミヤが居て、甘やかしてくれるのになぁ」
「出張じゃあな。まあ俺がいてやるから安心しな」
「……番犬」
「犬いうな」