第1章 A
「やれやれ、今日も絶好調だな」
「……確かに厄介でした。マスター、さぞお疲れでしょう。私が報告を担いましょう、映像データも司令部に出してきます」
「そう? じゃあ、よろしくねセイバー」
肩についていた小さなポーチを外しリシェはセイバーに渡す。セイバーは一礼してさっそうを背中を向け早足に仕事の報告をするために消えていった。
「しかしまぁ、なんだってそんなに気に入られてるんだ」
「間違えたの」
「何と」
「キャスター・ギルガメッシュと」
「キャスター?」
時はさかのぼり二週間前。
「キャスターが増えた?」
「あぁ、上が『また後衛か』と嘆いていた。確かにそれはいただけない、近距離中距離に長けたセイバーとランサーのマスターであるリシェの仕事量が変わらないからな」
「とんだブラック企業。セイバーのマスターやランサーのマスターはいるけどそんなに人数はいない。現場は多数、一か所に二基出したいところだけど人員が割けない、となると一人で二基以上を所持する私が駆り出される、と」
食堂を手伝う赤いアーチャー、彼のマスターであるリシェは昼過ぎ人が引けたところを見計らって、愚痴りに来ていた。
エプロンを付けたままのアーチャーと向かい合わせに座り、コーヒーとケーキで一息をついたところ。リシェの後ろから一人のサーヴァントが話しかける。
「ほう、キャスターとな。いったいどこぞの英雄か?」
「あぁ、ギルガメッシュ。女の子のキャスターらしいですよ。あなたなら博識ですし、多少の常識はありますし、ここでの生活も長いから力になれるんじゃないですか?」
「博識、であると?」
「それなりに紳士だし、顔もいいし、なんだかんだ言って面倒見いいし」
「マスター。マスター」
「なに?アーチャー。私は適任だと思いますよ? キャスター」
キャスター・ギルガメッシュとは付き合いが長い。ここで暮らして長いリシェがいつから顔を合わせるようになったか覚えていないほどに。だから「仲が良い友人」である、しかしアーチャー・ギルガメッシュとはまだ面識がそれほどない。初めてと言っていいほどに。
そのほぼ初めての長い会話があれだ。一方的にほめるようなセリフ。勘違いするのも無きにしも非ずだ、最後にクラスを間違えたとしても。