第1章 A
『時計塔へ目的地を設定します』
車、というには近未来を感じる乗り物に乗り込み、硬質な言葉にリシェが「よろしく」と一言。その車は自ら交通ルールを守りながら目的地へと向かっていく。
「マスターはどうしてあのアーチャーを避けるのですか?」
「しつこいからだよ! 我の妻になれと!」
「マスターの年齢は結婚に適していると思われます。それに、相手はあの英雄王です、私としてはマスターの結婚相手に値すると思うのですが」
「確かに物件としては好条件だよ。でもねセイバー。相手はサーヴァント、しかも友達のサーヴァント。結ばれたとして関係ややこしくない?家族関係?人間関係?所属先?届はどこに出すの?」
「落ち着けマスター。王サマはボケるな。マジで収集つかないから早くアーチャー戻ってきて」
時計塔。言葉の通り大きな時計塔に彼ら魔術師のアジトはある。
魔術師と彼らと契約したサーヴァントがここで暮らしている。
そのため生活に必要な設備は整い、外に出ずともすべてのことがこの時計塔の内部で済んでしまう。何不自由することはない。ただ一つ、顔触れが変わらないという点においては、彼女、マスター・リシェにとっては不満である。
「やぁやぁ!ようやく戻ったか将来の我の妻よ!いや!今すぐにでも妻になるがよい!」
「よぉ、金の王サマ。今日もお迎えにテンプレートありがとうよ。して、あんたのマスターは?」
「我のマスターはマイルームにいるが」
「はいよ。マスター、アーチャーが戻るまでお友達に言っておいたほうがいいぜ、令呪で縛り付けて置けって」
「いい提案だ!」
金ぴかの鎧に金の髪、赤い瞳が蠱惑に誘う。が、リシェは視線をランサーに絞り、ランサーはマスターを金のアーチャーから隠す。
「ランサー。なぜ我と未来の妻との時間を邪魔する。裁きを下すぞ」
「前科者の言葉を素直に聞けるほど悪じゃないんでね」
「前科者? 我が?」
「へぇ、とぼけるんすね。寝込みを襲ったり、苦手なお酒を飲ませたり、風呂を覗いたり?」
「また後でと言ったのだ。少しだけならと承諾した。たまたま入ったらいた」
どっかで頭を打ったのだ。とランサーはため息をつき、マスターの肩を抱いてさっさとその場を離れ自分たちのマイルームへ向かう。