第4章 D
「マスター、カバンはマスターの寝室に置けばいいのか」
「うん」
本当の自室があった時計塔はほとんど壊滅状態。自分の持ち物などないに等しい。
小さなリュックに入りきるだけのこまごました持ち物。あとは町を出るときにギルガメッシュ王に購入してもらった服や日用品だけが今のリシェの物だ。
工房が片付くと、さて。とリシェは立ち上がりエミヤの後を追った。
「どうかしたかマスター」
「お風呂に入るからパジャマを取りに来たの」
追って部屋に入ってタンスを開ければわずかばかりの服、そこからパジャマを手に持ち見守るエミヤの前を通り過ぎようとした。
「うわっ」
「魔力供給だ。しばらく黙っていろ」
唐突にエミヤがリシェの肩をつかみ、自分の胸に抱きしめた。
リシェは背中でエミヤの鼓動を感じ安心したのもつかの間、首筋に顔をうずめてきたエミヤの吐息に体がこわばった。
「明日からはこうしている時間がなさそうなんでな。別に構わんだろう?」
「え、あ……うん」
「なら、遠慮なく」
上から覆いかぶさり、リシェの顎を持ち上げて長いキス。
エミヤは自分の腕にすがるようにつかまるリシェの反応に薄ら笑いを浮かべながら唇をなぞるように舐めあげた。
「……ん」
「舌を出して」
素直にちろりと舌を出すマスターに、サーヴァントに対してマスターがそれでいいのか? と疑問に思ったが、自分の前だけだと納得する。
ちゅう、と魔力を含んだマスターの唾液を吸い上げ、物足りない気もするが、と思いつつもマスターを開放した。
「っ、はぁ」
「すまない、かわいくてな。無理をさせたか?」
「う、ううん! 大丈夫!」
パジャマを抱きしめリシェは恥ずかしさから逃げるように部屋を飛び出していった。
「少しやりすぎただろうか」
顔を真っ赤にして去っていく背中にエミヤはやさしく笑いかけた。