第1章 A
「セイバー!」
声高に叫ばれた言葉、そのあとに響いたのは断末魔。ザリ……と静かに鳴った足音以外には何も聞こえなくなった。
「行きましょう、もうここにいる必要は……マスター?」
規律正しそうな女性の声が誰かに呼びかける。しかし呼びかけた相手からの反応がなく自分の後ろにいるであろう誰かを振り返った。
「いや。ちょっと、憂鬱だなって」
「……この戦いがですか?」
「あぁ、いや」
あいまいに返事を返したマスター・リシェ。苦しそうな笑顔をセイバーに見せた後うつむき、ため息をついた。
「マスター。この戦いは必ず終わります、それまでは」
「違う違う! これだから王サマってぇ生き物は。察しがわりぃなぁ」
「ランサー。私はマスターを励まそうと」
ランサーへ反論するセイバー。お察しの通り、あの、セイバーだ。そしてランサーは、あの、ケルト神話に由来するランサー。
「時計塔だろうが」
「時計塔?」
「察しろよ」
「あー、はいはい! もういいから! 帰りますよ二人とも!」
一触即発。どうもこの二人は小さなことでも衝突する。
「しかしマスター!」
「大丈夫、セイバーとランサーが側にいてくれたらなんともないから!」
ランサーはそう言い切ったマスターに顔を寄せ一言吠えた。
「俺ぁ赤いアーチャーのほうが役に立つと思うけどねぇ?」
「今はいない! 頼れない! そして、あいつは私の力じゃどうしようもない!」
「開き直んな。金ぴかからの数々の悪戯を回避できねぇのは、どう考えてもあんたが鈍いからじゃ? 俺いようががセイバーがいようが、ましてアーチャーがいよう関係ねぇじゃねぇか」
「アーチャーがいれば引っかかる確率は下がる! 確実に下がる!」
「その一回が厄介なんだっつの」
気が乗らないのは悪戯のせいか。と興味をなくすセイバーと絡まれる主人を憐れみながらも、できればかかわりたくないな。と眉をひそめるランサー。
魔術的ななにか、澱みから生まれた魔物たちと戦う彼ら、マスターと呼ばれる彼らは魔術師。そして、彼らが操るサーヴァント、先ほどから発言をしているセイバーやランサーといった者たちのことだか、彼らとともに協力し合い魔物から世界を守っている。