第3章 C
魔術で体を守っているとは言え、ただの人間に耐えられる速度と、消耗しすぎない魔力で飛んでいるヴィマーナ。
機体に客室などないため全員風にさらされながらの移動。それほど早く進んでいるわけではなく、景色へ視線を落としながらギルガメッシュが静かに口を開いた。
「時計塔に配属になってから、いや、それ以前も友人と呼べる者はいなかった。アリスはいつもお前の話をしていた。それでだろうか、お前のことをよく知っている気になる」
「アリスがそんなことを。嬉しいな」
「不思議なものでな、マスターというよりかは子か妹を見ているようであった」
お父さん……と小さくつぶやいたリシェにギルガメッシュは地獄耳で聞きつけ、やさしくなでていた頭を容赦なくかき回す。
「誰が父か、たわけ」
「うふふ、すみません」
「まあよい。少し集中して飛ぶ、このままでは夜までに間に合わぬ。多めに魔力をもらっていく、お前はここで昼寝でもしておれ」
はい。と返事をする前にぐぐっと体から魔力が抜かれていくのを感じ、あぁと声を出す暇もなくだるさを眠気が襲ってきた。
「良い夢でも見るよい。我の胸でな」
ぎゅうとギルガメッシュの腕に包まれリシェは穏やかに眠りについた。
「おいおいおーい。いいポジションだなアーチャー?」
「ふん、羨むがよい。貴様の胸でマスターが眠ったことはなかろう? ランサー」
「かわいい顔もするって知らねぇだろ?」
「この寝顔も十分愛らしいと思わぬか?」
「んーまぁな。確かに間抜けでかわいいな」
金のアーチャーの肩越しにランサーがマスターの安心しきった寝顔を覗き込む。そこへぬるりとセイバーが顔を出した。
「アーチャー、あとどのくらいで着くのでしょうか」
「焦ったのかセイバー。貴様の大事なマスターが我の膝で眠っているからとて手は出さぬ」
「いえ、違います」
「……ちがう?」