第3章 C
「遅いぞランサー。酒に強いと言っていたのはうそか」
「はぁ? お前は下戸すぎるんだよセイバー、すーぐ潰れたんだぞ?」
「潰れてなどいない! つまらなくなったから眠ったのだ」
「はっはっは、強がりはよくないぜぇ。最後に呑んだ酒の名前だって覚えてないくせに」
「う、うまい酒だったことは確かだ!」
「ほーら、名前なんか言えないだろー」
「お前は言えるのかランサー。セイバー、けんかをしている暇があるなら、マスターの出立の準備を手伝ってきたまえ」
いつものようにアーチャーにいさめられ、いーっと唸りあうランサーとセイバー。彼らから視線を外し、マスターのほうへ興味を移すと少しばかり嫉妬をしてしまいそうになるが、穏やかな会話がなされていた。
「今はまだお前のサーヴァントだ。荷物は我の宝具へしまっておこう」
「はい。ありがとうございますアーチャー。でも、持ち物はないから、エミヤのお弁当を入れてください、ぐちゃぐちゃにしたくないので」
「簡単なことよ。温度すら管理して見せよう」
「あ、アーチャー。もし霊脈が何もない所だったら困るから、キャンプセットとか準備していきましょう」
「案ずるな。準備は完璧だ」
「さすが英雄王!」
なんだこの温度差は。とエミヤはクラリとめまいがしたような気がして、額を手で押さえた。
ようやく準備が整い家を出たのはお昼を目前にした時刻。
昨日の今日で町は妙なざわつきに包まれていたが、霊衣を一般人に寄せ町を歩けば、不審な視線をもらうことはなかった。
「時計塔のアレ、ガス爆発ってことになってるんだね」
「テレビでもそういってたが、無理あるだろ」
「とはいえ、キャスターのおかげで被害は時計塔のみに止まりましたから、幸いでした」
電気店や軽食店の前に設置されたテレビからは、昨日の爆発はガス爆発だったと政府関係者がいっている旨の報道が聞こえてくる。
「政府関係者と言っていますが魔術協会のことでしょう」
「まどろっこしいことをするものだな」