第3章 C
マスターから感じる熱い吐息がイケないことを妄想させた。
「ったく。俺のマスターさまはかわいいな」
ぎゅうと抱きしめ抱きしめ返され、クスクスと笑いあいながら。クー・フーリンは誰にも似せないキスを何度も何度もリシェにする。
しばらく自分の胸に自分だけのマスターを閉じ込め、満足した風に息をついてベッドに起き上った。
「ありがとよマスター。充電完了」
「こちらこそ。安心できたよ」
布団に半分顔を隠したままにこにこと笑うマスター。その顔にクー・フーリンの頭の半分を支配し始めていたよこしまな考えはなりを潜めた。
「ったく、牙が抜かれる顔をやめろ。いいか? ここに俺とお前だけだったら自分がどうなってたかを考えろ」
「今は違う。大丈夫。クー・フーリン、自分がサードだからって気後れしてはだめ。言ったでしょう? 契約を結ぶのには理由がある。わかる? そして、契約をしたからには一番も三番もない」
「わかってるつもりだがな。俺の性格かなぁ」
「きっとそう。だから、甘えたいときは甘えていいんだよ」
「あーっ、はいはい! いいから寝ろ、さっさと寝ろ、また抱きしめたくなっから寝ろ」
「クー、おやすみのぎゅうして」
据え膳! と心の中で爆発させたが、抱きしめたマスターから、やっぱり犬だなぁと聞こえて萎えた。萎えたのではない、自分の立ち位置に安心して、自分を犬と呼ばせるのはマスターだけだ。と考え直したのかもしれない。
朝、アーチャーの鉄拳で起きた時には、酒の勢いがあったとはいえ昨夜のことを思い出して、少々後悔したのは胸の中にしまっておくことにした。
「ランサー。抜け駆けで手を出そうなど思ってないだろうな」
「なんだよアーチャー。仕方なくセカンドに収まってるんじゃなかったのかよ。ベタ惚れか」
「だったらなんだ。汚い手で落とせば、セイバーに首を刎ねられておしまいだがな」
あぁそうだった。最も手ごわいのはアルトリア・ペンドラゴンだ。俺の、俺やアーチャーの知らない、新人時代の、それよりももっと前のマスターを知っているのはセイバーだけだ。
昔の話だけはマスターもセイバーも、知っていたはずのキャスター・ギルガメッシュも話してはくれなかった。