Instead of drink[テニプリ 越前 リョーマ]
第3章 夕暮れ
「あ、あのさ」
「…うん?」
少し焦っているようなこもった声でリョーマが言うからは顔を埋めたまま返答した。
「あんまりそこに …顔 近づけないでくれる?」
はリョーマの腹部から顔を離し見上げて彼の顔を見た。横を向き少し照れくさそうに気まづそうにするリョーマがそこにいる。
え、ええええええええと叫びたくなるような声を抑えリョーマのその表情を見る。
この人の魅力のひとつ。ギャップ。
女は男のこういうギャップに頗る弱い。先程まで上から見下ろされ先手を取られ少女漫画のようなシチュエーションに心臓を鷲掴みにされ所謂メロメロ状態にさせられたというのに、今はなんだ。
気まづそうに横を向いてそういうことを我慢して抑えようとしているこの状況。ああ無理。キュン死というやつである。
さあどうしようか…と悪魔的感情が湧いてきたけれどここは外。しかも時間も遅くなってきた。考えるのをやめて何も言わずには身体をリョーマから離した。
「リョーマくん そろそろ帰ろう」
リョーマはの声を聞いて一歩後ろに下がりながら、ん。とだけ言った。
「すっかり遅くなっちゃったね」
は立ち上がりながら夜空を見上げる。
ほんの数時間前だ。私の運命が変わったのは。
一人で悩み苦しみ妬みと嫉みと必死で闘いながらの毎日がほんの数時間前に一変した。
今、私の目の前には越前リョーマがいて手を握られたりキスをされたり、私が好きだと彼に抱きつけば彼が自身の欲を抑える姿を目の当たりにしたり。こんな夢のような出来事を例えるなら…
例えるならそう。
住む世界や立場の違い、距離、あとは次元。
自分が生きているこの空間の違い。
絶対に思いが通じることはない、結ばれることのない悲恋。見えない壁が立ちはだかりそれを壊す術すらなくただ思いを募らせながらその世界で生きていくだけ。
でもそれは「絶対」ではないのだ。
諦められない強い想いはどこかで必ず救われる時がくる。報われなくても救われる時が必ず来る。
はそう思った。