Instead of drink 《テニプリ越前 リョーマ》
第3章 夕暮れ
「リョ、リョーマくん…あの」
「なに?まだ帰ろうって言うわけ?」
あの、と告げた言葉に被せてリョーマが答える。被せるということはリョーマの心が穏やかでは無い証拠だ。
顔をあげたリョーマがを見ている。
下を向いていたからかいつもより多めに前髪が目にかかっている。前髪の隙間から見えている目でを見ていた。
「…ち、違う、」
「じゃあなに?」
じゃあなに?と問われてしまった。
しかしその問いに答えは無い。
自分がリョーマに言えることはもうない。今は。
ない、けれど
「あ…み、見てて、ご、ごめんなさい」
口にした言葉は…
一言の謝罪だった。
私はあの時、ただこのブランコに座るリョーマとあの子を見ていた。あの子の身体が動く度にリョーマが動く度に自分の身体は固まっていく。
あの子が笑っていて高めの可愛い声をリョーマに向けながら慌てふためく様子に私は動けなくなっていた。仕草も背格好も可愛らしくて女の子で。ここからは見えないけれどきっと表情も可愛いのだろう。それを見て想像するだけで動けない…自分と比べてしまう。自分は可愛くない上にこんなことをしていて。苦しい。呼吸も止まってしまう程に。瞬きもできないくらいに。
あの子はブランコに座っていじらしく足をもじもじとさせながら一言、二言とリョーマに話をしているのだろう。同じ学校の男女の制服を着て。
もう、胸が張り裂けそうだった。
いっそ張り裂けて消えてしまいたいとも思った。ずっと抱え込んできた自分のコンプレックスが爆発しそうだった。私は一生彼と同じ学校に通うことは無い、彼と学生生活を楽しむことも出来ない、あの子は…それができる。全部持ってる。
こんな自分は嫌いだ、素直でいかにも女の子というあの子に吐きそうなほど嫉妬している。
そしてその時の自分の恥じるべき行動を今リョーマに打ち明けそれをリョーマに謝罪している。なんと滑稽なことなのか。きっと、リョーマはこんな私のことなど好きでは無い。きっと、嫌いになる。
恥ずかしい。泣きたい。泣きそうだ。無言の時間が自分を責めている気さえした。
の目の視界がゆらゆらとゆがみ始めた時リョーマはさらに顔を上げた。