Instead of drink 《テニプリ越前 リョーマ》
第3章 夕暮れ
リョーマの気持ち。
あの子の気持ち。
には入ることの出来ない空間。
まさに大きな壁というものがそこにあった。
自分も、彼と同じ学生生活を送りたかった。
カラオケの室内で考えていた自身の欲や叶わないどん底の希望が再び脳内を支配していく。
あの子が
リョーマくんと、呼んでいる姿が浮かんでくる。
やんわりと風が吹いて、の髪が靡いた。
その時公園の地面に広がる砂を踏む靴音が聞こえてくる。
「降りれないって 言うんじゃないよね」
向き直るとリョーマがそこで呆れたようにを見ていたからそんなわけないよと笑って見せた。
リョーマは優しい。
無口だし、生意気で誤解されやすいが本当はとても優しい。目立った行動はしないが誰かが困っていたり悩んでいたりすれば手を差し出す人だ。
さりげなく手を差し出せる人だ。
「ん」
リョーマは右手を差し出した。
今日という日にありがとうと告げ、また明日と沈んでいく太陽。
この太陽が沈んでしまったら、今日起きたことは全てなかったことになるのではないか、また泣いて苦しむ日々の繰り返しになるのではないか、そんな恐怖をかき消すようには差し出されたリョーマの手を取り、立ち上がって滑り台を降りる。
バタバタとステンレスを踏む音を立てながら。
「滑り台なんて久しぶりだったなあ」
リョーマから手を離しはそう言った。
そのまま今度はあのブランコへ向かう。
そしてあの時彼女が座っていたそこへ座った。
キイと音が鳴る。鉄の太い鎖は少しだけひんやりとしていた。