第2章 フラワータウン
頬になにかが触れる気配を感じた。いや、触れると言うよりも"優しく叩く"と言った方が正しいかもしれない。数度軽く頬を叩かれ名前はそっと目を開けた。
まず視界に飛び込んできたのは端正な顔だった。
「良かった……やっぱ生きとった…。大丈夫ですか?どっか痛いとかありません?」
甘くて、柔らかくて、優しい。そんな声が名前の身を案じて言葉を投げてくる。しかし名前は相手の問いかけに答えられずにいた。
視界いっぱいに広がる端正な顔立ち、さらさらと柔らかそうなミルクティー色の髪の毛、形よく整えられた眉、綺麗な瞳、形のいい唇。何から何まで完璧(パーフェクト)な顔が自分を覗き込んで見ている事に頭がついていかないのだ。
そんな名前に端正な顔立ちの男は小さく眉を寄せ、聞こえてます?、とそっと頬に触れる。
その瞬間ーー名前は目を見開き慌てて体を起こせば、ごちん、と派手な音を立て男と額同士をぶつけてしまった。
「~~っ…!ご、ごめんなさい…!大丈夫ですか?!」
あまりの痛さに自身の額を抑え蹲っていた名前だが、自分と同じように額を抑えている相手が視界に入り慌てて言葉を投げ掛けた。
と、そこでふとある事に気が付いた。
ーーな、なにあの格好…王子様?
思わず心中でそんな事を思った。しかしそれも無理はないだろう。今現在も額を抑え痛がる端正な顔立ちの男の出で立ちはまるで漫画の中の王子様のような格好をしているのだから。
青色と紺色を混じり合わせたような色合いのジャケットで肩にはエポレットがついている。ジャケット同様の色味をしたスカーフは赤い薔薇が添えられている。手には白い手袋。腰にはガラス細工で出来た薔薇が添えられたレイピアが下げられている。
もしかしてドラマかなにかの撮影をしているのだろうか?などと考えてふとある違和感に気が付いた。辺り一面に薔薇が咲き誇っているのだ。まるでどこかの薔薇園に迷い込んでしまったのかと思うほどの薔薇の量に圧倒されてしまう。
赤い薔薇、桃色の薔薇、オレンジと桃色が混ざった淡い色の薔薇。
それらの薔薇が緑の葉をアクセントに立派に咲き誇りそよぐ風に僅かに揺れ、踊っている。