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転生したら何故かめっちゃモテるんですが?

第1章 プロローグ・始まり



 ーー人生のどん底って、今みたいな事を言うんだろうな。

 冬独特の冷たい風をその身に受けながら、苗字名前はぼんやりとそんな事を思った。

 間抜けにも口を半開きにし喉を少しだけ反らせたまま名前の視界はあるものを一点に見つめている。ゆらゆらと身をくねらせるそれはオレンジのような、赤のような、黄色のような。否ーー"それ"の色なんてどうでもいい事だ。
 そもそも"それ"はなんなのか?
 名前の視界を独占している"それ"。しっかりとした形がなくゆらゆらと身をくねらせるそれは吹き付ける風によりごぉっと大きく踊り熱風をこちらに送り込んできた。

 "それ"とはつまり"炎"の事だ。

 ならばその"炎"はなににその身を寄せているのかと問われればーー答えは"家"だ。正確には"名前が借りているアパート"なのだが…なにがどうしてこうなったのかは分からない。ただ、肩を落としながらアパートに近づくにつれ騒がしくなっていく周囲に嫌な予感が頭に過ぎっていた事は確かだ。
 消防車やパトカーやら人やらが騒がしく名前の横を抜けて自分の家の方へと向かっていく。そのせいで嫌な予感は最高潮にまで到達してしまった。
 焦る気持ちとざわつく心をそのままに足を無理矢理動かし自身の家まで迎ってみれば――"その有り様"であった。
 アパートを丸々飲み込んだ炎はとても大きく、まるでモンスターのようだった。
 風に吹かれる度に大きく揺れ色をほんの少し変えては名前や野次馬、消火活動をしている消防士などに熱風を送る。わーわーと騒ぐ人々の声が全く気にならなかった。まるで耳を塞いでいるかのように、周りの音が聞こえてこない。

 ただ唯一聞こえるとすれば吹き付ける風の音と、揺らぐ炎の音のみ。

 炎に食べられてしまっているアパートを名前はただぼんやりと眺めながら今日一日の事を振り返った。
 思えば名前が少しだけ今日一日という日はは朝から散々だった。朝家を出て早々に鳥の糞が肩に落とされスーツは汚れるし、横を通り過ぎた車に泥をかけられお気に入りのヒールを汚されーー更には上司に"クビ"を言い渡され、途方に暮れる中鳴り響いたスマートフォンに出てみれば10年付き合っていた彼氏から別れを切り出された。

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