第2章 フラワータウン
悲しみに暮れていた名前ではあったがそれも二三日のうちだけであった。彼女は強かな女であり、やはり酷く現実主義者なのだ。泣いてばかりでは生活出来ないと気持ちを切り替えたのだ。
そんな現実主義者な名前がひょんな事から異世界に転生をした。
そんな絵空事なような事。きっと現実主義者の名前でなくなくてもありえないと言うだろう。しかし、そのありえないと言う事が目の前に"現実"として現在進行形で繰り広げられているのだから信じる他道はない。
「えっと……取り乱してごめんなさい。とりあえず、お互い自己紹介しませんか?」
痛む頭に片手を添えつつ目の前の男にそう言葉を投げ掛ければ、せやな、と緩く頷いて笑って見せた。スカーフに添えられた赤い薔薇が良く似合うな、とその時名前は思った。
「俺は白石蔵ノ介。ここフラワータウンの平和と、王の安全を守る為騎士団の一員をさせてもろてます」
「騎士団?そうなんだ…顔が良いからてっきり王子様かと…」
「ん?なんか言いました?」
「あ!いえいえなんでもありません!!」
控えめに言葉を零した名前のそれに男ーー白石蔵ノ介はほんの少し眉を寄せ首を傾げた。それに対し慌てて両手を前に突き出しブンブンとと左右に動かす名前。額には薄ら冷や汗をかいている。
ーー変なところに来たからってうっかり口滑らせ過ぎでしょ私~!クールよ、クール。いつも通りの私でいかなきゃ。
冷や汗を流しつつも、んん、と咳払いをひとつ落とす。分かりやすい気持ちの切り替え方だ。
「私は苗字名前と言います。貴方の言った通り人間で……ここの世界の住人ではありません。と言うか、自分でもなんでここに居るのか分かりません」
「あーせやな、それは見ただけで分かったわ」
眉を八の字にし苦笑気味に笑って見せた蔵ノ介。
どうやら相手を苦笑させてしまうほど名前は酷く狼狽えていたらしい。それも無理のない話なのだが、普段あまり取り乱すことの無い名前にとって他人にそれを見られる事は恥ずべき事であった。
お見苦しい所をすみません。そう小さな声で言葉を零せば、仕方の無い事やから謝らんといて、と蔵ノ介は優しい声音と優しい笑みをよせてきた。