第25章 キス…した、い。
普段なら夕食の支度をしなければならない時間をとっくに過ぎているが、島に上陸している時は別。
各々酒場や店に行ったり好きな時間を楽しんでいるから。
エリナもマスターが親身になって話を聞いてくれるもんだから、ついつい酒が長くなって足元は結構ふらついていた。
船に戻り力の入らない足腰に踏ん張りをつけて梯子を登る。
船内は静まり返っていてまだ皆街で騒いでいるようだ。
静かな廊下を進み自室へ入る。
部屋の電気をつけようと思ったらローの部屋へと続く扉の隙間から明かりが漏れている事に気づき、珍しくこの時間にいるんだな、と思いながら部屋の電気をつけた。
「ふぅ〜」
ベッドに倒れこみ天井を仰ぎながら、ふとマスターの言葉を思い出す。
大事にされている、か…
果たしてそうなのだろうか。
だってあのローだ。
きっと、いや絶対あの色男が女を大事するなんて思えないし逆に女に困らない上弄んできたはずだ。
でもあの不器用な優しさや昔から温かい手とかたまに見せる優しい眼差しとか。
気付けば彼の事を考えていて、惹かれているのは間違いないんだ。
そしてふとすれば、触られた所が今でも感触や温度を鮮明に覚えていて身体が熱くなる。
ローはどう思っているんだろう。
接触を拒んだこの一週間。
私の事考えてくれているのかな?
それとも高みの見物をして遊ばれているだけなのかな。
好きってその言葉をはっきりと言ってくれなかった。
私も言えやしなかったけど、この思いは確かで揺るぎないものだ。
大事にしてくれているから触ってこないの?
だとしたら、ローの言う通り私から求めなければローは納得してくれないのだろうか。
はぁ…
どうしたらいいんだろう…
思い詰めているとコンコンとノックの音が響いてその音がした扉を知って私は気怠い体を思い切り叩き起こす。
ローの部屋からだった。
「はっ、はい!」
不覚にも敬語で反応してしまう。
「…いるか?ちょっと頼みがあるんだが」
「う、うん」
身なりを整えて、扉を開ける。
すると何やら見慣れないものが部屋を占拠していた。