第40章 魔女がいたことを忘れない。
「エリナ…」
「うん…そうだ!」
「へへ」
心が軽くなっていく。
重いわだかまりが溶けて、涙と笑顔が溢れ出す。
「ま…“普通”にはならないがな」
「…ロー?」
悪戯に口の端を釣り上げたロー。
エリナのこめかみはピクピクと動く。
「せっかくだから最後、全身に毒蜘蛛這わせてあげようか?」
「……気持ちだけ受け取っておく」
「あっ!ちょっと待ちなさいよ!ロー!!」
「くくく…」
「ぷっ…」
「始まった始まった」
いつもの日常が戻ってきた。
二人の背中を見てクルー達は呆れる反面、安堵する。
「これでキャプテンも…少しは落ち着くかな」
「エリナが居なかった間それはそれは怖かったよな〜。いつもピリピリピリピリ」
「良かったよ本当に。もうあんな思いしたくないし、させない」
「ああ…当たり前だ」
指輪に最後の呪文を告げそれは本当にただの装飾になった。
それはまだ私の薬指にされている。
時計の針は止まったけどこれを見るたび忘れる事もないし記憶が掠れて行く事もない。
魔女がいたことを忘れない。
「ねぇロー、私はもうワンピースは狙えない。だから貴方の手となり足となるから、必ずその夢を叶えて見せてよね」
その横顔はどこか切なげで奥ゆかしくて、美しい。
ローは胸が高鳴って泳いだ瞳は海面へ逃げる。
俺だって一人で叶えるより、その時はお前と一緒に。
「お前のいない世界は退屈だ。暇つぶしが出来ない」
「ねぇそれ褒めてんの?けなしてるの?」
「くく…さぁな」
私には守りたい人がいる。
大切な仲間がいる。
貴方の生きる時間を私が輝かせるから。
魔女の私はちょっと眠りにつきます。
もし未来に、次の世代に希望が持てるならその時はまた…。
きっとその頃も、私の子供が生きる時代でも。
貴方がそばに居てほしいから。