第40章 魔女がいたことを忘れない。
指輪はベガパンクの実験室にある事をローは知っていた。
ここから脱出するにはスピード勝負。
ベガパンクとの戦闘は極力避けたい。
ローは施錠のかかった重厚な実験室の扉を刀で切り破り、指輪の保管されているガラスのケースを探す。
途端に目をむき出して驚愕するベガパンク。
「なっ…⁉︎トラファルガー、お前…っ⁉︎」
「シャンブルス」
狼狽えるベガパンクを他所に視界に入ったガラスケースの中の指輪とナイフを能力によってすり替えた。
指輪はエリナの掌へ。
「…!…あ」
二年振りに見たその指輪は何も変わっていなかった。
ただ少しだけ、石の赤色がくすんだように感じる。
暫し指輪を見つめ、身につけるのはやめた。
「後は銃だな…」
部屋を去るローへ、ベガパンクは叫ぶ。
「おい待てトラファルガーめ!よくも実験体を…っ!」
実験体。
そう吐いたベガパンクの言葉に人ではなく物扱いしていた彼の価値観を突き付けられ、エリナは怒りがこみ上げて来る。
「ねぇロー…あいつやっちゃって」
「悪いが今は無理だ。ここを早く脱出する事が最優先だ。何より…お前の手で下したいだろう?」
そう言われては、今の私じゃあ諦める他なくて。
ベガパンクの実験室を出た頃には緊急放送で海軍本部内全てに非常事態の警告が流れていた。
より厚い海兵の配置にロー達は目的地へ急ぐ。
倉庫にあったエリナの銃。
ここは海賊や囚人から徴収した武器や物を保管している場所だった。
どこまでも用意周到なローを感心する。
綿密な計画性、昔から彼の特徴の一つだ。
「あぁ懐かしい私の銃…ごめんね」
ホルダーケースごと保管されていた二丁を腰へ巻くと思い出すこの感覚。
この二年…本当に何してたんだろう私はー
「思いふけるのは後でいいか?あの窓から逃げる!」
ローの指差した窓。
青空が見える。
外はどうなっているのかわからない。