第40章 魔女がいたことを忘れない。
私の人生において、ハートの海賊団の船に乗っていた時間はここでの生活よりも短いものになってしまった。
しかしその宝物はいつまでも色褪せる事はなく、むしろ殺伐な日々ではその思い出にすがる事でここまで乗り越えられた。
ベガパンクの研究が始まり二年。
エリナは痩せ、髪の毛はだいぶ伸びた。
外出できない分、肌は日焼けを知らず透けるように真白い。
その瞳は光を失ったように暗く、深い闇の沼を思わせる。
二年前のエリナとはまるで別人だった。
「入るぞ」
もう彼を見てもエリナの感情は動かない。
椅子に座り窓の外を見ていたエリナは部屋へ入室するDr.ベガパンクの気配を背中で感じる。
「この二年で君たち一族の研究は大いに進歩したよ。だがまだ解明出来ない所もあってな。紹介したい奴がいる」
入室したのが二人いたのは分かっていた。
エリナはゆっくりと振り返る。
息が止まった。
「紹介するまでもないか…王下七武海の一角、トラファルガー・ローだ。優秀な医者でもある。今後の研究は彼をメインで参加してもらう」
心臓がどくんと高鳴って震える。
目が離せない。
この二年思い出さない日なんてなかった。
ずっと会いたかった貴方。ローがいた。
「魔女に会いたかった。ゆっくりと彼女の話を聞かせてもらっていいか?ベガパンク」
さらさらと溢れて出る貴方の声。
どれほど聞きたかったか。
どれだけその声で名を呼んで欲しかったか。
「ふふふ…くれぐれも殺してはダメだよ?死の外科医」
薄い笑みを零しながら退席したベガパンク。
「…っ!」
エリナは何て声をかけていいのか分からなくて喉が震える。
大好きな人の名前さえ呼べない。
唇を噛み締めて涙を堪えていればローの両腕が私を捕まえて、もう二度とこの腕から離れるものかと誓った。
「悪かったエリナ……待たせた」
「ふっ…うう…ほんとだよ…馬鹿…っ!」
抱き締めたら見掛けよりもずっと小さくなってしまった彼女にローは胸が詰まる。
「やっと迎えに来れた。すまねぇ」
「…遅いんだから」
暫く抱き締め合う二人。
離ればなれだった時間を埋めるように。
更に筋肉がついたのか以前よりも逞しく感じるローの姿。
ただ泣きじゃくるエリナを今にも壊してしまいそうな程強く抱き締めた。