第37章 必ず迎えに行くから
潜水を開始し安全海域まで侵入する間、皆心ここに在らず、そんな表現が一番当てはまるのではなかっただろうか。
舵を担っていたペンギンは手動から自動操縦に切り替え、各々も各持ち場から離れキャプテンを探した。
潜水中は何かあれば食堂か航海室へ集まるから、ペンギンが食堂へ来た頃には既にローとベポが言い争っていた。
「キャプテン!エリナを助けに行こうよ!」
「分かっているそんな事は。だが理屈がわからねぇんだ」
「俺は目の前で見た…エリナが突然消えたんだよ」
言い争う二人へエリナの側に居て一部始終を見ていたシャチが顔を青ざめさせながら告げる。
「シャチ、詳しく説明してくれ」
ペンギンがシャチへ尋ねる。
「ああ…、エリナがクマの攻撃に当たっちゃって、そしたらあいつは掌をエリナに向けたんだ。で、暫く何か話してた。そしたら消えたんだよ!突然!」
険しい表情で俯いたシャチ。
「俺が…もっとちゃんとしっかりしてれば…ッ、エリナをすぐに奴から突き放せば…ッ!」
拳は固く握り唇を噛みしめた。
「自分だけを責めるなシャチ。油断していたのは皆同じだ」
ローがシャチへ呟く。
そうだ、皆何が起きたのか考えたり追いつけるような速度じゃなくて。
本当に忽然とエリナが居なくなってしまったんだ。
「助けに行くんでしょキャプテン⁉︎」
重い沈黙を破ったのはベポの一声。
そんな事は言われなくても分かってる。
いつかこんな日が来るんじゃないかって、あいつを仲間に入れると決めた時から想定はしていたんだ。
だけど、
あまりにも不可思議すぎるだろうー
「…それは出来ない」
「えっ⁉︎」
目を見開き動揺したのはベポだけ。
他は皆険しい表情でローの話を聞いている。
「何で⁉︎だってこのままじゃエリナが…」
「…………」
ベポのつぶらな瞳は揺れている。
「…今の俺たちでは海軍本部全ての総力に真っ向勝負をかけるのは無謀過ぎる上、リスクがでかい」
ローは帽子を被り直した。
その表情を隠したいかのように。
「力が必要だ…まだまだ…ッ」
ガタン!と机へ拳を叩きつけたロー。
その手は僅かに震えていた。