第10章 葉
「おい、大丈夫か?」
「……」
要さんに床に下ろされ、静かに一度頷いた。
「ひでえ状態だな、何があったんだ?」
「……っ」
何から説明しようかと思ったけど、思い出すだけで胸が張り裂けそうになる。
その場にしゃがんでしまい、臭いの染み付いてしまった髪を握った。
とりあえずは、といつもしてくれるように熱いお湯のバスタブに入れてくれた。
爪の先まで気を配られた指が、優しく私の髪を洗ってくれる。
体温より少し熱いくらいのお湯が緊張しきった身体をほぐす。
それなのに、私は質問一つに答えられないでいた。
浴室のよく反響するその場で、話せるまで待つから、という声だけが木霊する。
見上げる綺麗な顔は、少しだけ困ったように笑う。
見えなくなってしまったのは、抱き締められたからだと気付くのに、随分とかかった。
ぬるま湯で身体が重くなったように思う。
気だるさと一緒にやってくる眠気のせいかもしれない。
どうして私なんだろう。
という答えのない問に、時間が過ぎていく。
ゆっくりとふわふわとしたタオルに包まれ、漸く頭が現実に戻ってきた。