第9章 黒
不安になるとここまで頭が働かなくなるとは思わなかった。
手が小刻みにひたすら震える。
『どこだ?』
と短いメッセージが届く。
『公園』
となんとか打って、来てくれるのを待つ。
後回しでいい、とか、先に用事を、とか、言いたかったのに、言葉にならなかった。
何時間経ったか、もう感覚がなくなった頃、聞き慣れたバイクの音がする。
「…っ!」
荷物を持って、慌てて鍵を開けて出た。
ただ、その綺麗な身体に抱き締められることが、幸せで震える。
「心配させやがって…!」
「……!!」
ありがとうもごめんなさいも、息が詰まって言えない。
堪えるつもりでもなかった涙がやっと流れる。
五感のほとんどがきかない。
自分が自分ではないような。
ただそこにある安堵に、身を沈めて全てを忘れたかった。