第1章 雨
こんな汚い身体、この人には似合わない。
そこでやっと、恥ずかしいと思えた。
「……!!」
恥ずかしいとはまた違う。
惨めだと。
「お前……」
薄暗い浴室では見えなかった真実。
私の全身についた痣や傷を見て、どう思うだろうか。
それが、肉親に付けられているモノだとしたら。
「その…、悪かったな」
「……っ」
服を戻され、掛けられた体重が消える。
「まっ…」
思わず、腕を引いた。
なんでそんなことしてしまったのか、自分でもわからない。
兎に角、行かないで欲しいと、そう思った。
こんな汚いのに、そんなことする権利なんてないのに、泣きそうになりながら、私は引き留めてしまった。
「な、なんだよ…」
「ごめんなさい…」
「喰って欲しいのか?」
乾燥機に掛けられた制服が出せたら、早く帰ろう。
「私、惨めだなって……」
もうとうに感覚は麻痺してたと思ってたのに、涙が零れる。
その人は困ったように短く整えられた髪を触り、少し考えた。
少し前までは、平凡な家庭だった。
突然母が連れてきた男がただ怖かった。
もう怯える生活は嫌だ、そう思ったのは何ヵ月前だろう。
慣れに慣れてしまった恐怖心と嫌悪感から、逆らうことすらやめて、家に帰ることに居心地の悪さしか感じない。
ぴー、という電子音が響く。
乾燥機が止まったようだ。
「ご迷惑おかけしました、帰ります……」
頭をきちんと下げ、ゆっくり制服を着た。
「嫌なら泊まってけよ」
「いえ…」
「なんもしねえから」
「大丈夫、です……」
首に重りのようにリボンがかかる。
気だるい、元の私だ。
「さようなら」