第1章 お伽噺のように結ばれたい
「おい、ユリア……」
「少しだけ……、すみません、少しだけ……」
普段ならこんなことは出来ないししない。王子様に自分から手を出すお姫様のお伽噺なんて見たことが無いし、聞いたことも無い。自分をお姫様だと思ったことは無いが、ミケは偉大過ぎてこんなこと出来るわけなかった。
普段なら。
ギュッとしてみるが、ミケからは何も無かった。
分かっている。彼にとっては自分がただの部下であること。彼にとって自分は、子供すぎること。
虚しくなって離れると、ミケが一年前座った場所と同じ場所に座った。ミケはユリアに座れと言ってくれたので隣に座った。
「……ユリアは、何故俺を“王子”と呼んでいるんだ」
突然の言葉に、酔いは覚めた。
「……はい?え、はい?」
動悸が激しい、息が苦しい、意識が飛びそう。こんなに焦ったのは初めてだ。いや、兵団選択の時以来と言うべきか。
雲で隠れていた月が顔を出す。
辺りが一気に明るくなり、ミケの表情が良く見える。
あ、ダメだ。王子様だ。凄くカッコいい。
「ユリア?」
ミケが呼び掛けると、戻ってきたユリアは急いでミケに問い質した。
「だ、誰がそんなことを言っていたんですか?ナナバさんとかですか?」
「いや、無意識なのか、何度か俺を“王子”と……」
「……へ?」
初めてミケが“王子”とハッキリと呼ばれたのは、ユリアの初陣となった壁外調査。
ミケを呼ぶ際、必死になっていたのかユリアは「王子!」と呼んでしまっていたらしい。
それから日常でも、王子と言いかけて言い直す場面が多々あり、割と出会ってすぐから知っていた。