• テキストサイズ

最愛 【黒子のバスケ】

第14章 黒須みさき16歳


BOSSの下に付いて3年半
現場にも出られるようになってその日は女優さんのヘアセットをやらせてもらってた。

その女優さんはサッカーが好きで、メイクルームでは開催中のワールドカップのサッカーの中継がついてた。

あたしはサッカーは見たくなかったけど、クライアントが見てるのに見たくないとは言えなくてそのままにしていた。


200度に熱したコテを持って女優さんの髪を巻き始めた時、誰かがシュートを決めたらしく、大きく会場が盛り上がっている様子が聞こえた。


直後に試合が終了して、中継は試合後のヒーローインタビューに切り替わった。


「最後ギリギリのゴールでの勝利ですが今の気分はいかがでしょうか!?」

テンションの高い声は日本語だった。

見たくないサッカーに顔を上げることなく髪を丁寧に巻いていくと、次に聞こえた声があたしの全身を一気に鳥肌にさせた


「最高です!自分のゴールが勝利になったことも期待に応えられたことも最高です」

嫌な予感を確かめたくて顔を上げると、映ってたのは紛れもなくあの男だった。

ダイジェストでゴールを決めた瞬間が何度も流れて、チームメイトに称賛されて観客は大喜びだった。

「この喜びを誰に伝えたいですか?」

「やっぱ一番は応援してくれてるファンの皆さまなんですが、家族にも伝えたいです。…報道でご存知の方もいらっしゃると思うんですが、先日結婚しまして妻のお腹には子供もいるので二人の愛する人に伝えたいです」

「おめでとうございます‼」


許せなかった。

あたしはあの事で自尊心も尊厳もすべてなくなってボロボロだった。

それでも何とか立ち直ろうと思って、忘れるためにできる努力はすべてしてきたつもりだった。
あいつもプロのサッカー選手って未来を失ったんだって思ってたから、痛み分けってことで逮捕されなかったことを忘れようって思ってた。


でもあいつは全てを手に入れてた。
仕事も奥さんも子供も

あたしはずっと誰も好きになれなかったのに、あたしにしたことなんてまるでなかったかのように、幸せそうにインタビューに答える山本を見たらもうすべてが無駄に思えた。

解雇されたチームとは違うチームだったけど、結局山本はプロとしてピッチに立って、シュートを決めてチームメイトに称賛されて輝いてる


許せなかった。

そしてもう…



何も頑張れなかった
/ 1719ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp