第13章 未来を掴む
『絶対にそれを選ぶと思ったわ』
やっぱりBOSSはあたしの事はすべてお見通しなんだ
『本当にいいんですか?』
『手術とリハビリを乗り越えたらあなたはあの靴を履く権利を手に入れるのよ。手術が怖くてリハビリが辛くて投げ出したくなったらこの靴を見て自分を奮い立たせるの。あなたは自分の目標を絶対に諦めたりしないって私は知ってるわ』
手術が怖かった
手術の日程が迫るほどに、仕事以外の時間はその恐怖に全て支配されそうになっていた
リハビリを想像すると逃げ出したかった
ヨガや自重トレーニングを重ねてきた脚の筋肉が切開されることでまともに歩けないところから今と同じように歩けるようになるのか不安でたまらなかった
昔刺されたときも普通に歩けるようになるまでに何か月もかかった
先を考えれば考えるほどどんどん真っ暗なトンネルから抜け出せなくなりそうだった
止まらない涙を何度も拭いながらBOSSに胸を借りて子供の様に泣いた
親の前では泣けなくてもBOSSの前では子供の様に泣きじゃくれた
『9月にあたしがあなたの下でやるのよ。愛弟子の下でできる師匠なんてこの世に何人いるかしら。あたしはあなたを弟子に迎えることができて幸せよ。だからわたしに感謝するならあたしの上に立って現場を仕切るあなたの姿をわたしに見せて頂戴』
あったかくて優しくて強い言葉だった。
今感じる不安も恐怖もあたしが強くなるためにある。
9月にまた必ずBOSSと仕事をする。
これがあたしの次の目標
諦めたり逃げ出したりしない。
あたしがメイクとしてきちんとやっていけてるのはBOSSがいたからこそで、その人があたしの現場に入ってあたしの姿を見たいって言ってくれるならそれを叶えるのがあたしにできる恩返し。
『次の現場はあなたがBOSSよ』
『はい!』
『またNYでね』
多忙で次の仕事があるBOSSは今日の最終便で次の現場に入るために出国する
きつくハグをしてから離れて石鹸のお店でパットの為に選んだ宝石のような石鹸を渡した
『全然高価な物じゃないんですけど…』
『あなたが心を込めて選んでくれた事以上の価値ってなにかしら? 宝物にするわ』
『使ってください(笑)』
『フフフ…ならあなたに恋人ができたらね』
『え、酸化して割れちゃうと思います…』
また9月
必ず一緒に仕事をする