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最愛 【黒子のバスケ】

第12章 何度でも


今のあたしにとって半日を棒に振ることがどんなに大きなことかこの人には分かってない。

だけど別に分かってもらおうとも思わない。

「ご検討いただいてお電話ください。どちらにしてもお会いしてのお打ち合わせは8月以降になりますのでその点ご考慮ください」


「…上司と相談してお電話いたします」


普段仕事では怒りはほとんど出さないけど、今は気が立っていたせいもあって言葉尻がきつくなったことは自覚していた。
それでも、海外行きを旅行やバカンスだと決めつけたような軽率な発言は今の私の神経を逆撫でするには充分だった



この後フリーになっちゃったし、今日は帰ろ…

こんな予定外の時間に電話なんてしたら困るって思ったけど声が聞きたかった。
予定がどんなにずれても必ず迎えに行くって言ってくれた青峰君に甘えたかった。


「もしもし」

「どうした?休憩か?」

少し息が弾んでて運動してたのに邪魔しちゃったのかと思って罪悪感を感じる。

「午後の仕事キャンセルになったの。だから…」

「迎えに行く。朝と同じ場所でいいか?」

「うん。ありがとう」

「今ネロといるから一緒に連れてくけどいいか?」

「ネロ君さえよければあたしは全然OK」

「ゲージに入れるから大丈夫だ。割と近いから20分で着く」


もうスタジオを出る用意は済んでたから、休憩室でパットが新しく出したメイクブックを見ながら待って、夢中になってたらスマホが震えてメッセージが届いた。

(着いた。急がなくていい)

帰り際に引き留められて仕事の話をしてる時に青峰君の電話が取れなかったことがあって以来、お迎えの時はいつもメッセージを入れてくれるようになった。


休憩室をでて守衛に頭を下げて出ると出入り口の横に立って待っててくれるのもいつものことだった。

「お待たせしました。車にいていいのに」

「今来たとこだ。どこに停めたか分かんねぇと無駄に歩き回っちまうだろ」

そう言ってあたしの荷物を当たり前の様に受け取って車に乗せてくれる


いつもは私を乗せるためにドアを開けてくれたら迷わず運転席に行くのに、今日は後部座席を一回開けてゲージの中の可愛い子を見てから運転席に乗り込んだ。


きっとネロ君はもうあたしの存在に気付いてる。
鼻がすっごくいいんだから気づかないはずはない。








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