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最愛 【黒子のバスケ】

第12章 何度でも


仕事は予定通り順調にこなして、脚の痛みも朝晩の冷え込む時間帯以外はほとんど出ない。


午前中に1件撮影を終わらせて、次の現場に移動しようと思っていたところに先方の担当者から連絡が入った。


「もしもし」

「すみません。黒須さんでしょうか」

「はい」

あれ、いつもと声が違う。
誰だろ


「すみませんが、担当が体調不良になってしまいまして、本日の打ち合わせをキャンセルさせていただいて、明後日以降に変更していただきたいのですが…」


「そうなんですね。お大事になさってください。キャンセルは大丈夫ですが、ちょっとこの後日程取れなくて、電話やメールでのやり取りしかできなくて…」

「え⁉そうなんですか⁉」

「はい、すみません。担当の方にはお伝えさせていただいていたんですけど、6月からちょっと海外に出てしまうので…」


「あー…いいですねぇ(笑)フリーの方は余裕があって」




はい…?



今回のアメリカは行きたくて行くんじゃない。

何なの…

今のあたしに余裕なんてない。

仕事に集中するために、こんなに神経を使うのは初めてのことだった。
いつもなら無意識に集中できてても、今は手術の事や体重を増やさなきゃいけない事をふとした瞬間に思い出して、言いようのない恐怖や不安に襲われることが何度もあった。

それでも仕事だから、100%の仕上がりで仕事がしたいから、必死でそれを振り払ってやってきた。

それに、手術がうまくいって順調に復帰したとしても、今回受けていた仕事を何件もキャンセルしてあたしの信用は確実に失われた。
そんな状態で、帰国後にまた日本で仕事がもらえるのかその不安はいつもあった。


なにも知らない人に“余裕があっていい”なんて思われる筋合いはない。


「そう思っていただくのは勝手ですが、当初にお伝えしていました通り、日程を変更しての打ち合わせはメール及びお電話でのお打ち合わせになりますので、もし、御社でそれが無理ということであれば企画自体別のメイクさんとしていただいても構いません」


相手がクライアントでも自分が悪くない時は謝らない。

そもそも、こことの仕事はスケジュール通りならあたしの手術の影響は何もなかった。
体調管理を怠っておいて責任転嫁されるような言い方は我慢ならなかった。
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