第12章 何度でも
新婦さんの用意を打合せ通りに進めて、新婦さんだけのお写真を撮る間に新郎さんのメイクとヘアを造り始める
「いつも黄瀬がしてもらってる方に自分がしてもらうなんて不思議です」
「私もちょっと不思議な感じします」
「でも黄瀬の言う通り、黒須さんは本当にメイクが上手だと思います」
「ありがとうございます」
「妻がいつも言っているんですよ。黒須さんのメイクは芸術だって。濃くないのに華やかで確実に美しくなるって言って本当に気に入ってる」
それ…すっごく嬉しい
濃くすればある程度華やかにはなるし、顔をはっきりさせることもできるけど、せっかくのいい部分も消してしまうことがあるから濃くしすぎないってことは常に意識してた。
「最高の褒め言葉です。これからもそう思っていただけるように精進します」
新郎さんも完成して、二人が写真撮影の合間にエントランスに降りて挙式直前のメイク直しに備える。
ゲストが続々と集まっていて黄瀬君や事務所の他のモデルさんや社長さんも到着していた。
そしてその華やかな集団に頬を染めながらも、友人の結婚式だと弁えていて、騒ぐことなく、弾けるような笑顔で友人の結婚を祝福する素敵な女性たち。
こういう新郎新婦が見れない瞬間を見てメイクの合間にそれを話すのも私の楽しみの一つ
なんかみんなほんとに綺麗で楽しそう。
ガーデンの隅から朝はできなかった今日の日差しの強さを確認して、ピックアップしておいたファンデーションの中から撮影で一番綺麗に見える色を選んで印をつけて中に戻ろうとしたら、背の高い集団の中にいるキラキラの髪の黄瀬くんと目が合った。
社長に声をかけて集団を抜けた黄瀬君と社長さんが私のところに挨拶に来てくれた
「みさきっち、お疲れ」
「黒須さん、お世話になっております」
「こちらこそいつも大変お世話になっております。本日は誠におめでとうございます」
形式通りの挨拶をして社長さんが集団に戻ると、黄瀬君が小声で話しかけてくる。
「今日もし帰り大変なら俺送るっスよ。二次会まで時間あるし」
「ありがとう。でもね、大丈夫なの…」
「もしかして今日も来てくれるんスか?」
「うん。日本にいる間はしてくれるって…もうホントすみませんって感じ」