第12章 何度でも
side青峰
“ダメ” “ダメじゃねぇ”のやり取りをもう何回繰り返したか分からねぇ。
「んー…ダメなの。ご両親との貴重な時間を使わせられない」
「ダメじゃねぇ。帰国すりゃ嫌でも毎日会うっつーの」
「でもダメ。ネロ君寂しいって」
「ダメじゃねぇ。ネロとは日中遊んでやることになってる」
「でもダメだもん…………」
ついに理由が尽きたのかダメっつったきり黙り込んだ
「ダメじゃねぇ。会わなきゃ肘の手術頑張れねぇかも」
「なっ‼…そんなこと言うのずるい…」
確かにズルいかもな。
でもどうしてもお前に会いてぇんだよ…
5分でも10分でもいい。元気なお前をちゃんと覚えておきてぇ
綺麗な目と髪、すべすべの肌、小柄で華奢な体、笑った顔、照れた顔、抱きしめた時のしっくり感。
みさきの手術が成功する以上に望むことなんてねぇけど、もし万が一、二度と会えなくなっても何度も思い出せるように焼き付けておく。
「俺が肘の手術頑張れなくてアクティブの空きに他の奴が入ったら俺レイカーズクビだぜ?」
嘘だけど
「それは困るっ‼」
「だろ?だから送り迎えは俺。朝も帰りも毎日俺がする」
「……無理しない?」
「しねぇ」
お前に会えねぇことが一番無理
「約束だよ。絶対絶対約束だよ」
「分かってる。約束だ」
「ん˝ー…じゃぁ…お願いします…」
長かった…
過去最高に長げぇ交渉だったかも
あ、でも初めてベッドに連れ込んだ時も結構かかったな。
「契約成立だ。違反したら違約金かかるぜ」
「え!?6.7.8と仕事ないからお安くお願いします」
女から金なんて取らねぇよ
本気にすんなよ
「違反しなきゃ0だ」
「でも本当に夜中とか早朝とかあるよ?」
「それでもいい。仕事の行きと帰り必ず連絡しろ」
「うん。あの…ありがとう」
俺が会いてぇからそうしてるに決まってんだろ
“ありがとう”なんて言ってもらうようなことじゃねぇ。
俺の欲求にみさきを付き合わせてるだけだ。
「俺がそうしてぇの」
「一応スケジュール送るね。無理な日はタクシー使うから言ってね」
「そんな日ねぇ」
お前に会うための帰国だ。それより大事な用事なんて一つもねぇ。
電話を切って、ゲージから逃げ回るネロを何とか捕まえてチャーター機に乗り込んだ。