第10章 near &far
逆走して追いかけてきた青峰君にあっという間に捕まってぐっと腰を引き寄せられた。
「罰ゲーム終わってねぇんだけど?」
「さっき呼んだじゃん!」
「聞こえてねぇんだから呼んだことになんねぇだろ。ほら早く名前呼べ」
「…ぃき」
「そんなじゃ聞こえねぇ」
「もう!だいきっ!これでいいでしょ‼」
「ダメだな。俺の名前に“もう”なんて付いてねー」
「意地悪‼」
恥ずかしくて顔が真っ赤でずっと青峰君の胸辺りを見てたのに青峰君が急に顎を触って上を向かされた。
あたしの目を捉えて「ちゃんと呼べ」って言われたら逆らえない。
怖くて逆らえないんじゃなくて好きすぎて逆らえない。
「…ん…だいき…」
ぎゅっ
「聞こえた」
好きな人を名前で呼ぶことがこんなに恥ずかしいなんて初めて知った。
青峰君といると自分が知らなかった感情を次々と教えられて自分が恋をしてるってことを嫌って程突きつけられた。
「もう1回言え」
「ダメだよ。罰ゲームは1ゲームに付き1回だもん」
「ならもう1回やろーぜ」
「今度は負けないもん」
そのあと最初にもらった青峰君のアドバイス通りセオリーは無視して直感を信じて臨機応変にやってみるとあっさりあたしが勝った。
「やったー。青峰君の負けね」
「…何させるつもりだ…」
「青峰君の初恋ってどんな感じだったか聞きたい」
「はぁ!?絶対ぇヤダ」
「ダメだよ罰ゲームだもん拒否権ないの」
「チッ…相手のこと何にも知らねーんだよ。後姿と横顔を一瞬見てなんでか分かんねぇけどいいと思った。でもそのあと一度も会えなくてバスケに夢中だったし自然と忘れてった」
「何歳の時?」
「高1の冬だから16だな。そいつを見るまで自分はさつきが好きなんだと思ってたけど、全然違った。近くにいた女がさつきだけだったから家族に対する愛情と恋愛の愛情とが区別できなくてごっちゃんなってた。だから中学でさつきがテツを好きだって聞いた時も不思議と嫌って気がしなかったしどっちかっつったらさっさと付き合えばいいくらいに思ってた」
「それさつきも同じこと言ってた。黒子君に会うまでは青峰君を好きなんだと思ってたけど全然違ったって」
「そうだったんだな。でも勘違いのまま付き合ったりしてたらいずれ別れただろうな」